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りゅーていの小部屋

よろずなことをつらつらと。

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本当は60分目標だったのですが、あまりに尻切れトンボだったので泣く泣く90分に延長。

不自然な改行のところがそうです。

ある兄妹の昔話。
DEです。


【海の魔女】


「わたくしは、きれい?」
 それが少女の口癖。
「もちろんさ、僕の姫君」
 それは青年の真理。
 二人の世界はとても小さくとても狭い、美しい箱庭だった。
 時が過ぎ、妹は美しい少女になり、兄は精悍な青年になった。
 二人はこの世で唯一の血を分けた肉親である。
 妹は柔らかな金の巻毛と澄んだ海の青そのものの瞳と艶めく白い肌を持った美しい娘だった。
 兄は妹と同じ金の巻毛と夜明けの空のような薄紫の目と低く甘い声音を持つ美しい男だった。
 だが、二人には唯一つの違いがある。
 妹の美しさは大海の主たるある竜に与えられたものであった。

 少女は生まれた頃から病に冒されていた。
 病は少女の成長と共にその華奢の血肉から骨の髄まで侵し尽くした。
 少女が五歳を迎える頃には皮膚のあらゆる箇所が腐り、髪はすべて抜け落ち、両の目は失われ、四肢は枯れ木のように痩せ細り、まるで御伽噺に出てくる哀れな死者のような姿だった。
 少女が五年目の春を迎えた日のこと。
 少女は豪奢な天蓋つきの寝台の上にいつものように横たわっていた。
 その頃まだ存命だった少女の父が問うた。
『可愛い娘よ。何か欲しい物はないかね』
 娘はか細い声で答えた。
『おとうさま。どうかわたしをころして』
 父はそれはできない、と悲しそうな顔をして少女から離れていった。
 次に、まだ存命だった少女の母が問うた。
『娘よ、何かしてほしいことはないかしら』
 娘はか細い声で答えた。
『おかあさま。どうかわたしを生みなおして』
 母はそれはできない、と大粒の涙を流しながらその場をあとにした。
 最後に、少年だった兄が今にも崩れてしまいそうな手をとり、訊ねた。
『かわいい僕のプリム。君のためにできることはなんでもしよう。君の願いはなに?』
 妹は兄を見つめて、小さな声で問い返した。
『おにいさま、ほんとうになんでもきいてくださるの?』
 美しい兄はにっこりと笑って頷いた。
『もちろんさ、僕の姫君』
 妹は腐った頬を引きつらせ、笑い返す。
『おにいさま、プリムのほっぺにキスしてくれる?』
 兄はきょとん、と目を丸くした。
『そんなことでいいのかい?』
 くすぐったそうに笑い、兄は妹の頬に口付けしようと寝台に身を乗り出した。
『おやめなさい! なんてことを……!』
 父が兄の腕を強く引っ張り、妹から引き剥がした。
『ああおそろしい……あなたに病が移ったらどうするのですか!』
 母が兄を恐ろしい力で抱きしめ、青褪めた顔で震えた。
『一体、何を騒いでいるのですか?』
 両親と周囲にいた世話役の者たちが悲鳴を上げ、顔色を変え、混乱しているのを少女の兄だけが不思議そうに見た。
『僕は妹のお願いを聞こうとしただけですよ』
 不思議そうにしている兄に、周囲の者たちは口をそろえて言った。
『あなたまであんなふうになってしまったらどうするのですか!』
 その瞬間、少女が悲鳴を上げた。
 金切り声のような幼子の産声のような、奇妙で恐ろしく、悲しい叫び。
『たすけて……っ』
 少女が叫ぶ。
『たすけて……!!』
 兄だけが妹に駆け寄った。
『ルネィヴィアータ──わたしをたすけて!』
 少女の口にした名に全てのものが凍りついた。
 それはけして口に上らせてはならぬ、深き海の伏し処に眠れる魔神の名。
 厄災すらも忌避するという呪われた魔竜を呼び。
『──我が牙は汝の剣』
 重々しい音が静寂のうちに響いた。姿はない。だが、存在が確かに在ることを皆が感じていた。
『我が翼は汝の楯、我が力は汝が意志』
 それは、遥か昔より伝わる最も高名なる古き口上。
 
『ここに我ルネィヴィアータは誓おう。汝が意志と魂の果てぬ限りその傍らに侍らんことを』
 兄の前で少女の肌が崩れ落ちてゆく。
『ここに我セレネ・プリムラシェは誓う……』
 目の前で起こる妹の変化が恐ろしく、兄は妹の細い醜い体を抱きしめた。
『わたしの意志と魂が全うされるまであなたの主たらんことを』
 はっきりとした柔らかな肉声に、はっとして兄は腕の中の妹を見た。
 そこには病で腐敗した肌の妹ではなく、見たこともない美しい少女がいた。
『わたし、きれい?』
『プリム? 体が』
 少女はにっこりと笑うと、兄をほっそりした腕で抱きしめた。
『もう、だいじょうぶなの』
 兄は泣きながら妹を抱きしめ返した。
『よかった……ほんとうによかった』
 周囲に歓声が沸いた。
 だがしかし、それはどこか空々しい喜びだった。
 美しい兄と妹だけが幸福な御伽噺の挿絵のように、喜びを分かち合っていた。

 時が過ぎ、妹は美しい少女になり、兄は精悍な青年になった。
 父は航海中に嵐に巻き込まれ壊れた梁に潰され、母は階段から足を滑らして全身の骨を折った。
 少女の世話役の者たちは辞めていき、皆行方知れずになったという。
 二人はこの世で唯一の肉親になった。
 妹は柔らかな金の巻毛と澄んだ海の青そのものの瞳と艶めく白い肌を持った美しい娘に。
 兄は妹と同じ金の巻毛と夜明けの空のような薄紫の目と低く甘い声音を持つ美しい男に。
 だが、二人には唯一つの違いがある。
 少女の命は五歳で尽きるはずだったが、十三年ほど生き永らえている。
「────わたくしは、きれい?」
 
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