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りゅーていの小部屋

よろずなことをつらつらと。

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書いてみた。

獣人と竜の話。

周囲から見るとお前ら結婚しちまえよってことになるのだろうか。

でも当人してみれば、そういうことではないんだよ、と言いそう。

雰囲気はやや腐向け……かなぁ。

物凄く親しい友人、というスタンスのつもりです。

いちゃついているように見えたら、それは竜の距離感がおかしいのだと思う。


走り続けた。
振り返らないように走った。ただただ怖くて。
■■■■■■が追ってきているのを知っていたから、振り向きたくなかった。
苦しかった。何より悲しかった。
死んでしまった。あぁ。あれが悪い夢だったら。
あのひとを殺したものがやってくる。きっとこれは悪い夢だ。
次は自分だと知っていた。震える心でひたすら願った。
どうか、どうか、夢なら覚めてください。
──わたしを ばらばらに しないで くだ さ い
伸ばした手を、誰かが握った。

「カーラ」
低くよく通るのにこもりがちな声──意識が覚醒する。
夢。やはり夢だった。
どくどく。心臓の脈動が全身に響き続けている。
ゆっくりと深呼吸をする。目を閉じ、開く。
自分の住処とは違う風景に怪訝に思いつつ、こちらを見下ろす巨大な狼の存在に気を緩めた。手入れの行き届いた暗い灰色の毛並みに埋もれる琥珀。理性に満ちたそれは案じるような色を浮かべている。
狼頭の友人は落とした声音で訊ねてくる。
「うなされていましたが、具合でも悪いのですカ?」
「ウルか」
なんでもない。言葉が騒がしい心音に押し流されて消える。息苦しさに喘ぐ。
「何です?」
「夢……」
辛うじて吐き出した言葉の欠片に賢しいウルは首を傾げる。
「夢? 夢見でも悪かったのですカ?」
促すでもなく、聞き出そうとするのでもない。ただの確認の問いかけに軽く頷く。
「そんなところ……嫌なモンに追いかけられる夢、だな」
顔を覆おうとして、腕が動かないことに気づく。ウルがこちらの手を握ったままでいた。
「おい」
「ということは大怪虫に追いかけられた夢なんカで、あんな悲鳴を?」
「手をはな……悲鳴? 誰が?」
流石に聞き咎めて、体を起こす。すると彼は牙を隠しきれぬ顎を少し引き、繋がっている手を軽く振る。
「アナタが」
「俺が?」
「ワタシの名前を叫びだしたので、てっきり起きているのカと……寝ぼけていたんですねぇ」
しみじみと言った後、ウルは目を細めて鋭い牙を見せる。ぐるると喉を鳴らしながら、彼は言う。
「竜でも怖い夢を見て、悲鳴をあげるんですねェ」
ぐと喉がつまり、顔が熱くなる。乱暴に手を払って、狼頭を睨みつけた。
「ってか、お前、なんでここにいるんだ。よそ様の寝室に勝手に入ってくるとか有り得ないだろ」
「誤解があるようですが、よそ様の寝室で勝手に寝ていたのはアナタですよ?」
「はぁ?」
考えて、すぐに思い当たった。自分は眠る前、彼を待っていたのではなかったか。
「ということはつまりお前が来るのが遅いから俺は悪夢を見たと言う事になるのでは」
「責任転嫁も甚だしい。百年単位の年寄りにもなると難癖のひりだし方が絶妙ですね」
「うるっさいな全部お前のせいだろお前が悪い」
「人の寝室で寝こけておいて言いますカ、それ」
 短い溜息のあとにウルは呟き、こちらに背を向けて寝台に腰掛ける。
「確カに約束より遅くなったのは申し訳ないです。だカらといってそう拗ねないで下さい、カーラ」
 自分より遥かに若い狼に諭され、子供のようだと自覚しながらも寝台に粗雑に倒れこむ。
「ちょっと。埃が……寝るなら自分の住まいに戻ってください」
 寝返りを打って、ウルに背を向ける。月明かりが零れる窓を見つめながら空々しい戯言を吐く。
「呼び出しておいてこの仕打ちかよあんまりだ。ひでぇ奴。そんな子に育てた憶えはありません」
「……えぇはぁスミマセン。育てられた覚えはありませんけども」
「心のこもってない謝罪なんか蛆にたかられろ。ばーかばーかばーか」
「何を子供みたいなこと言ってるんですカ、アナタは。いい加減にしないと怒りますよ」
「俺だって」
 言いかけて。言おうとした言葉を口の中で転がしてみて、やめた。
 あまりにも情けない。友人とはいえ、自分よりも幼い生き物に何を望んでいるのだろう。
「カーラ、どうカしました?」
 心優しい狼は急に黙り込んだこちらを気遣って、肩に手を置く。
 固めの体毛に覆われた手は鋭い爪が相手を傷つけないよう、いつもそっと触れてくる。
 嬉しい。そう思う自分を恥じた。
 でも。そう思える自分を赦した。
 手から逃れるようにさらに寝返りを打ってうつぶせに体勢を変える。
「エ? 完全に寝に入ってません? 気のせいですカね?」
「怖かったんですね添い寝してあげましょう、は?」
「はぁ?」
「よければワタシの胸毛もといモフ毛をお貸ししましょう、でも可」
「……すみませんガ。もう少し相手に対して誠実な受け答えをしていただけませんカ」
 一回り低くなった声音に内心舌打ちしつつ、屈辱であったし面倒ではあったが、彼の要求に応える。
「俺だって怖いものはあるし、思い出したくないこともあるし、悲鳴だってあげるんだよ、ウル」
 言いながらもぞっと背筋が粟立つのがわかった。
思い出すのも嫌なあの悪夢は、今でも悲鳴をあげてしまいそうになる昔の記憶だ。
「やっぱり涙を流さないと慰めてももらえないのかな。だったら損だよ、俺たちは。泣けないからさ」
 たとえ八つの周期を生き永らえてきても、自分を強い生き物だと思ったことはない。
 竜でいるのは恐ろしくて寂しかった。何一ついいことはなくて、いつでも何かに怯えていた。
 命を絶ってしまえば楽になれるだろうかと、死に魅了されていた時だってあった。
「カーラは」
 背中をぱしぱしと柔らかいもので叩かれた。尻尾だ。掴もうとしたが、逃げられた。
「それで結局、ワタシに何をしてほしいんです?」
 考えて。言おうとした言葉を口の中で転がしてみて、やめた。
 あまりにも恥ずかしい。かわりの軽い戯言を告げる。
「全裸で添い寝を」
「嫌です」
 枕に顔が埋まった。息苦しいが、そのまま恨み言を呻く。
「あんまりだ……ウルは寝るとき全裸のくせに」
「洗濯物がふえるだけですカら。ふざけるなら出直してきてもらえます?」
「結構本気なんだけど。まぁいいや」
 肉食獣の眼差しを背中にひしひしと感じたので軽口をやめて、身を起こす。
「泊めてくれないんだろ、どうせ」
「えぇまぁ。遠慮させて下さい」
「案外冷たいよな、ウル」
 言いながら寝台の上を移動し、ウルの隣に座った。彼の肉厚な肩とこちらの額が同じ位の高さだ。少し上から琥珀の瞳がこちらを見下ろす。辛抱強い彼は黙って言葉を待っている。
「じゃあ、どっか撫でてくれるだけでいいや」
 少し迷ってからウルはこちらの頭に手を載せた。髪を撫で付けるように、ぎこちなく腕を動かす。いやに慎重な手つきで、面映くなってきてつい揶揄の言葉が口をついて出る。
「無難だなぁ。しかも下手くそだし。お前もてないだろ?」
 途端に手つきが乱暴なものになり、ぐりぐりと頭がもみくちゃにされる。
「ひどっ、ふ……っ……ふふ、あはは!」
 妙に愉快な気分になってきて、思わず笑っていた。
「何で笑ってるんですカ」
 体毛のせいでわかりにくいが、眉間にぎゅっとしわを寄せてウルは怪訝そうに言った。
「や。なんでもない。も、いい。だいじょぶ」
 手が離れてゆく前に、こちらから距離をとった。中途半端に宙に浮いたウルの腕が下ろされる頃には、窓の縁に腰をかける。軽く首を傾けるウルに向かって、笑いかける。
「帰る。また明日な」
「えぇ……おやすみなさい、カーラ」
「おやすみ、ウル」
 ひょっとしたら、彼は何か言おうとしていたのかもしれない。
けれど、それを聞き届ける前に窓の外へと身を躍らせた。数度壁を蹴って、数度屋根を跳ねて、狼の友のいる部屋が辛うじて見える場所から振り仰ぐ。
 彼はもう寝てしまっただろうか。用事があったのだから近くの屋根で一晩過ごしてもよかったかもしれない。けれどそうしたくはない。彼が本当は少しだけ距離をとりたがっていることを知っているから。
 本当は傍にいたい。けれど、ウルが嫌なら離れてても構わない。
 離れていてもこんなにも温かいから。
 この世界に彼がいると知っているから、一人でいても平気だ。
「──よい夢を、ウル」


<終>




竜はカラヴィノ。狼の獣人はヴォルフ・ウルフというあんまりな名前w
サイト未掲載のキャラですが、資料本には載せるつもり!
昔の話。
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